第1回 カミナリや花火などの音に対する犬の反応や行動
文京区の小暮動物病院の院長小暮規夫先生にお話を伺いました。

1.犬の聴覚
ご存知のように犬は人間よりも聴覚が大変すぐれています。
犬が聞くことのできる音の周波数は65〜50000ヘルツで人間の16〜20000ヘルツに比べ極めて敏感です
また特に人では不可能な超音波領域の振動も捉えることができます。
音源に対する方向感覚も、人間では16方向、犬は32方向を区別して知覚する事が可能です。
鼓膜は空気粒子のごくわずかな振動にも反応します。
リズム感もよく、毎分100拍のメトロノームと96拍のメトロノームを聞き分けられる感度の良さです。


2. 犬の音にたいする行動
音に対する反応や行動には、生得的(本能的)な行動と自らその音によって学習することでの行動とがあります

生得的反応には古代、犬の祖先が野生動物であった頃カミナリなどは天変地異の前兆であり、安全なところに
移動しなければならない、また食料難となるかもしれない、こういったことなどから異変を敏感に感じ取る感性の
DNAが現代の飼い犬にも受け継がれているかもしれません。
学習による反応には、カミナリや花火の音がするときに飼い主が犬を安心させてやろういつも以上に保護してしまい
犬に恐怖や不安を学習させてしまうことなどを言います。


3. 犬の不安と恐怖の違い
不安とは安心のできない心理状態であり、犬の分離不安症においてみられるように生理的反応が伴うこともあります。
また一方、恐怖は何かを恐ろしいと感じる状態であり、例えば雷鳴や花火の音に対して起こる恐怖反応のように一般に
対象は特定されます。不安の場合は対象が漠然として絞り込めないことが多くこの点が恐怖とは異なります。


4. 犬の恐怖に対する反応の原因
犬は、強い刺激や異質な体験を恐れる傾向を先天的に持っています。
大半の犬は、子犬の頃からカミナリや花火を何度か経験しながら自然にこれらの音に順応していきます。
しかし、これらの音から保護され人間に慰められて育ったような子犬はこれらの音に順応することができないかもしれません。


5. カミナリや花火の音に対しての恐怖反応
次のような行動をとる犬は恐怖や不安を表している反応です。(情動反応)
a) 落ち着かない(部屋中をウロウロ目的もなく徘徊する)
b) ドアを引っかいたりする
c) シッポを足の間にいれる(丸める)
d) 頻繁に舌なめずりをする、よだれを流す
e) 部屋中を走りまわる
f) むやみにに吠えまくる
g) 物陰に入りこんだり、地面や床を掘ろうとする

ひどくなると、部屋の中のものを壊したり、網戸や窓を突き破りケガをする犬もいます。



ここまでは音にたいする犬の反応や原因、犬の聴覚についてお話しました
では、実際に生活をする上でカミナリや花火に対して恐怖心を表す愛犬に対してどのような対応をすればよいでしょうか?

カミナリや花火の音がしたとき、犬は通常飼い主に慰めてもらおうと近寄ってきます。
飼い主は犬を安心させてあげようと通常より過度な保護をします。このような飼い主の行為は自然なものではありますが
犬がこれらの音に対する好ましくない行動を強化する結果となり逆効果となることもあります。

まず、カミナリや花火の音がしたとき、飼い主さんはいつもと変わらぬ態度、極端に言えば「何かあったの?」くらいの
超無関心な態度で接してあげましょう。
そして犬が落ち着いて好ましい行動をとっているときに、誉めたりやさしくなでてあげたり、また食べ物などのご褒美を与えます。
また、ケージにいれてあげるのもひとつの方法です。
犬にとってケージは休める場所安心できる場所として日ごろからケージトレーニングをしておくと、安心して入っていられます。

日ごろから、カミナリや花火の音をこわがる犬にはそれらの音に「慣れさせて」おくことも大切です。
最近では環境音が収録されたCDやテープが販売されています。
このCDやテープを使用して訓練(慣れ)していきます。

以下ご紹介する訓練方法は、小暮先生からお借りしました本
「動物行動治療学」
BENJAMIN L. HART, D.V.M., Ph.D. LYNETTE A. HART, Ph.D.
University of California, Davis
監訳 石田卓夫 学窓社
からの抜粋してまとめたものです。


雷雨に対する恐怖反応を軽減させる訓練方法
逆条件付け・系統的脱感作という方法を用いて、雷雨の際に大人しく落ち着いていられるほどの好ましい反応を
誘導するための訓練を繰り返し行います。
褒美という陽性刺激を不快な刺激によって誘発させるという通常相いれないものを逆条件付けといいます。
簡単に言い換えれば、食物や愛情表現といった適切な褒美を用いて、犬に雷雨を楽しむことを教える訓練です。

1. 飼い主さんは、雷など録音したCDやテープを用意します。(以下文章でCDと略します)

2. そのCDを1回だけ、最大の音量で犬に聞かせます。
このとき犬が通常雷雨時にみせる情動反応をみせれば訓練に使用できますが、みせなければ違うCDを探してください。

3. 訓練は特定の時間帯のなかで定期的に行います。
これには、実際の雷雨が発生し訓練の妨げにならない時間帯や季節を選びます

4. 犬にスピーカーのそばで数分間リラックスした状態で横たわらせたり、座らせたりします。
そして最初の何回かの訓練では、犬が決して否定的な反応を示さない程度の低い音量でCDを再生します。
小さな音で再生されている間、犬が落ち着いていれば頻繁に(約30秒ごとの程度)に、食物や愛情表現の褒美を与えます。
数回の訓練で犬はこの第1段階の訓練を楽しむようになります。

5.訓練が進むに従って、飼い主は徐々に音量を上げていきます。
訓練の回数は、音量を若干あげた時点で最低20回、各回ごとに犬が落ち着いていれば必ず褒美を与えます。
しかし、犬が情動的反応をはっきりと表した場合は、その時点で訓練をストップします。
翌日の訓練では、以前の安全な音量レベルにまでもどして再開してください。

6.日々の訓練を30回〜60回くらい行ったあたりで、犬は本当の雷雨並の音量を受け入れる体勢になったと考えられます。
この場合、録音の雷雨音であろうと自然の雷雨音であろうと、飼い主は以前同様に犬の反応が好ましいものであるときには
必ず誉めて褒美を与えるようにしてください。
この心理学的の手法は、ご褒美をあげるタイミングが少しでもづれたら逆効果なることがあります、
実施にあたっては、綿密な計画と多数の細かな注意を忠実に守りながら段階的に行わなければなりません。
できれば、専門医の指導のもとで実施されるのがよいでしょう。



実際に外国の専門医の監視のもと実施されている逆条件付け・系統的脱感作をご紹介しておきます。

外国の実際の症例
コッカープー(コッカープードルミックス)のBuffの雷雨に対する反応は、犬と飼い主双方に極度の苦痛を与えている
診断: 騒音恐怖症

治療指示
1. 雷雨の音響効果のレコードを購入し、音量の最大時にBuffに情動反応がおこるかどうか確かめる

2. 訓練は最低1日2回、低音量でこのレコードを1回約10分間かけておく
訓練中は、頻繁に(30秒ごと)好ましい高度に愛撫と食べ物を与え続ける。

3. 訓練中1回ごとに徐々に音量をわずかずつあげていく

4. Buffに対する愛情表現は、訓練中に好ましい行動をとったとき以外はしないでおき、訓練以外のときは無視する
自然のあるいは人工的な雷雨音の最中にBuffが恐怖反応を示した場合には無視する


訓練方法のまとめ
飼い主と犬の関係の再構築
報酬を利用した基礎トレーニングを行います。
また老齢になった犬は、身体の自由がきかなくなったり、感覚が鈍くなるために、些細なことで不安が生じやすい為
基礎トレーニングを毎日コンスタンスに飼い主さんが愛情を再確認させてあげると犬は安心するようです。

不安軽減、恐怖の対象となる刺激への系統的脱感作/報酬を利用した逆条件付け
できるだけ犬の不安を軽減するように心がけ、恐怖の対象が同定されていれば、その刺激への系統的脱感作および
報酬を利用した逆条件付けを行うとよいでしょう。
たとえ対象となる刺激が以前より経験しているものであっても、初めて経験する子犬に対するように接せねばならない。




最後に小暮先生から耳よりな情報です。

最近 「D.A.Pリキッド」という薬が発売されています。
これは、犬用鎮静フェロモン類縁化合物 といわれるもので、飲み薬でも注射でもありません。
市販されているコンセントに直接差し込んで使用する芳香剤に似ています。
そうです、犬の嗅覚から直接脳に作用させるいわゆる神経系に作用するものだそうです。
でも、人間には決して匂いません。

鎮静フェロモンとは、子犬を出産した母犬が3〜5日後に乳腺付近から分泌するフェロモンや
リーダー犬の耳からも似たような成分の匂いを分泌するフェロモンのことだそうです。
最近このメカニズムが解明されて人工的に作り出すことができるようになったそうです。

子犬はこの鎮静フェロモンの助けを受け母親に対して愛着心を抱くようになりますし、成長してからはリーダー犬の
分泌するフェロモンによって親離れして自らが所属する集団に愛着をもつようになるようです。

こういった成分を利用して、犬のストレスや不安による問題行動を軽減する効果があるようです。

具体的には次のような原因や問題行動に効果があるようです。
犬がストレスを感じる 原因
1.飼い始め
2.引越し
3.通院や入院
4.部屋の模様替え
5.見知らぬ人と接するとき
6.大きな音(カミナリ・花火)に対する不安や恐怖

不安やストレスによって起す問題行動とは
1.破壊活動
2.無駄吠え
3.不適切な排泄

みなさんのわんちゃんが、もし当てはまるようなことがありましたら、かかりつけの獣医さんやご紹介いただいた小暮先生に
問いあわせてみてはいかがでしょうか?
小暮先生の小暮動物病院は、Funnyのホームページの[Special Thanks]からも訪問できます。



小暮先生のプロフィール
獣医学博士 小暮動物病院院長
1954年 小暮動物病院(文京区小石川)開設

日本獣医学会・ヒトと動物の関係学会、日仏獣医学会、日本獣医麻酔・外科学会、
獣医皮膚科学会、日本獣医針灸研究会、獣医東洋医学会、比較心身症研究会、
動物医療発明研究会、聴導犬普及協会などに所属、理事・幹事など役職多数歴任され
これ以外にも、匂いと動物の研究会主宰、獣医動物行動学研究会設立発起人など。
また、あの話題になったタカラの犬語翻訳機「バウリンガル」にも開発スタッフとして携わられました。

主な著書・監修書
ペット犬の飼い方(日本文芸社)
犬の気持ち飼い主の疑問(講談社)
家庭犬の飼い方と病気の知識(西東社)
犬をはじめて飼う人の本(西東社)
室内犬飼い方・しつけ方・病気(西東社)
初めての人の犬のしつけと飼い方(西東社)
愛犬の飼い方しつけ方(日東書院)
最新 犬のお医者さん(主婦と生活社)
ワン和辞典 犬のことばがわかる本(二見書房) など多数



あとがき
今回、小暮先生にお話いただいたことは、愛犬の問題行動に困っている飼い主さんのお役にたてればと願います。
ご協力いただきました小暮先生には心から御礼を申し上げます


参考資料
「動物行動治療学」
BENJAMIN L. HART, D.V.M., Ph.D. LYNETTE A. HART, Ph.D. University of California, Davis
監訳 石田卓夫 学窓社
「イラストでみる犬学」 監修 林 良博 講談社




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